風営法改正の経緯 【第3回】各業界団体の設立と改正案。そして残された課題 by DJ Mizuta


日本の風営法改正運動の経緯を振り返る連載の第3回です。最終回となる今回は、下の年表の緑枠部分。「クラブとクラブカルチャーを守る会」「ダンス文化推進議員連盟」発足から現在に至る法改正の流れと、各業界団体による取り組みについて書きます。

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■「ダンス文化推進議員連盟」と「規制改革会議」

風営法改正を求める「Let’s Dance署名」は16万筆を集め、法改正が日本の音楽ファンにとって大きな関心事である事を示しました。この署名や他団体によるロビー活動がきっかけとなり、超党派の国会議員による「ダンス文化推進議員連盟」が2013年5月に発足しました。また、内閣府の「規制改革会議」の創業・IT等ワーキング・グループ「ダンスに係る風営法規制の見直し」も始まり、法改正の動きが具体化し始めました。

■「クラブとクラブカルチャーを守る会」と「日本ナイトクラブ協会」

風営法を改正する上で不可欠となってくるのが、業界と業界周辺のマナーと自主規制です。これに対して、2013年4月に都内で活躍するDJ、ラッパー等による「クラブとクラブカルチャーを守る会(C4)」が発足しました。このC4からの呼び掛けにより、翌2014年には都内の大型クラブが中心になって「日本ナイトクラブ協会」が設立され、日本初のクラブ業界団体として注目を集めました。

C4は法改正に向けたロビー活動や各種会議への参加とは別に、クラブユーザーにマナー向上を訴える「PLAYCOOL」キャンペーンを発信。クラブで活躍する有名なメンバーからの発信という事でマスメディアでも大きな注目を集めています。

■地方都市の動き

2013年、まずは福岡で「福岡クラブカルチャー向上委員会」 が発足し、シンポジウムやクラブ周辺の清掃活動を実施。そして、連載記事の第一回で触れたクラブの一斉摘発があった大阪でも、同2013年に「西日本クラブ協会」が設立されました。ついで2014年3月には、大阪のDJ、ラッパー、ダンサー等による「BRIDGE -音で人をつなぐ会-」も発足。BRIDGEではC4等との連携による複数都市同時清掃活動の他に、クラブイベント「アメリカ村感謝祭」を通してクラブマナーの発信を行う等、独自の活動を展開しています。

■国民参加型の法改正

風営法改正を指して専門家から良く言われるのが、それが国民参加型の法改正である事です。元を辿れば16万筆の署名。以降も、先に挙げた各団体や既存の社交ダンス団体等が法改正運動に携わるわけですが、それらも基本的に皆一般市民が集まって設立された団体です。個人発信では政府になかなか届かなかった国民の声が、署名や団体という形を取る事により国会に届くという実例を作った。そういう意味で、この風営法改正運動は重要な存在意義を有していると言えます。2014年夏に警察庁が「客にダンスをさせる営業に関する風営法の規制」についてパブリックコメントを募集した際も千件以上の意見書が集まりましたが、この件数もパブリックコメント制度の中で抜きん出た数字であり、国民の関心の高さを証明しました。

■クラブに対する取り締まりが沈静化した背景

2014年初頭の摘発を最後に、クラブへの取り締まりは沈静化しています。この背景に何があるのか私達に知る術はありませんが、冒頭に挙げた風営法年表の中に大きなヒントが示されています。2014年4月のNOON裁判一審無罪判決を境に取り締まりが完全に沈静化しているのです。この一審では「ダンス営業規制の対象は、性風俗秩序を乱す具体的なおそれがある営業と限定すべき」との判決文が出ています。更に、各業界団体が業界のマナー向上を目指して活動を始めている状況の中で、流石に警察も手荒な動きはできないのでしょう。一部クラブ関係者は「警察の取り締まりは、ほとぼりが冷めた」と考えている方もおられるようですが、その背景には先にあげた司法の見解や業界団体の弛まぬ努力がある事を忘れてはいけないと思います。逆に言えば、そうした動きが無ければ、今も取り締まりが続いていたのかもしれないのです。

■現在提示されている風営法改正案における懸念事項

当初はダンス議連主導で審議されていた風営法改正案ですが、現在は閣法として内閣(主に警察庁)主導で審議が進められています。最新の改正案の骨組みが以下の表です。

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改正案(図の右側)では、現行法にあった「ダンス」の文字が消えており、一見大きな進歩があるように見えますが、その代わりとして新設された「特定遊興飲食店営業」の定義が曖昧です。国会の答弁の中で、この定義の中にダンス営業(つまりクラブ)が含まれるという認識が警察庁より示されており、これでは現行法から進歩がありません。また、NOON控訴審判決で示された「現風営法における3号営業(主にクラブ)は風営法の規制対象に当たらない」という見解にも反しています。更に、この「遊興」には生バンドによる演奏や映画、演芸等も含まれる可能性があり、大衆娯楽文化を大きく規制する 事にもなりかねません。他にもこの改正案には照度規制の問題、店舗面積の問題、届出制ではなく許可制である事等、懸念事項が多く含まれており、業界に携わる人達が当事者目線でしっかり精査していく必要があります。遊興の定義が曖昧な事や許可制であることの複雑さから無許可営業が増えてしまう可能性も考えられ、これでは元の木阿弥で、法改正の意味自体が無くなってしまいます。

先の項でも書いたとおり、今回の風営法改正は国民の願いと働きかけでここまで進んできたのです。ですから、可能な限り、これまでに携わってきた団体と国民の希望に沿う形で改正する必要があります。極端に言えば、現行法3号営業として既に風営法許可を取って営業している店舗の立場で見れば、その規制対象が「遊興」として拡大される事は大きな問題にならないように見えるかもしれません。しかし本当にそうでしょうか? バンド演奏をはじめとする国民の音楽文化の向上無くして、大型クラブや音楽施設の本質的な拡大はあり得ないと思います。これは欧米諸国での音楽文化の繁栄・浸透が証明しています。今一度、国民発信の法改正として、各懸念事項にしっかりと向き合うことが重要です。

DJ Mizuta