風営法改正運動の経緯 【第2回】レッツダンス署名とNOON裁判 by DJ MIZUTA


日本の風営法改正運動の経緯を振り返る連載の2回目です。今回は下の年表の青枠部分。その中でも風営法改正の中で大きな原動力になったLet’s Dance署名と、NOON裁判について書きます。

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■club NOONの摘発

2012年4月4日、アメリカ村とは別の地域である、大阪市北区中崎町のclub NOONが摘発されました。騒音等の苦情もなく優良な営業を続けていたクラブが摘発された。しかも警察が立ち入ったのは21時台でした。もはや深夜営業は 摘発の根拠ではなく、設備を設けて飲食をさせて「ダンスをさせ」たことのみを理由に逮捕・勾留され、起訴されたのです。

■イベント「SAVE THE NOON」

関西ではこの段階で度重なるクラブへの取り締まりに対し、クラブユーザーやDJ、ミュージシャンから不満と疑問の声が高まっていました。NOONの摘発によりその声が更に高まり、7月にはclub NOONの救済とクラブ営業規制に対する不満の意思表示を形にしたイベント「Save The NOON」が開催されるに至ります。いとうせいこう、EGO-WRAPPIN’、Kyoto Jazz Massive、Sugiurumn、THA BLUE HERB、七尾旅人、須永辰緒、GOMA、石野卓球など、4日間で90組以上のDJ、アーティストが出演する壮大なイベントになりました。(※ 誤解が多いようなので改めてここに記しますが、当イベントの主催はNOONではなく、開催場所も心斎橋のOnziemeです。NOONに出入りしていたイベンター、アーティストが主体になって開催された事にこそ意義があったと考えます)

■Let’s Dance署名発足

話は前後しますが、同年5月には京都の法律家と事業者が中心になって立ち上げたLet’s Dance署名が始まりました。請願内容の主旨は以下の通り。

  1. 風営法の規制対象から「ダンス」を削除してください。
  2. 行政上の指導は、「国民の基本的人権を不当に侵害しないよう」に努め、「いやしくも職権の乱用や正当に営業している者に無用の負担をかけることのないよう」とする「第101国会付帯決議」(衆院1984年7月5日)や「解釈運用基準」(2008年7月10日)にもとづき適正に運用してください。
  3. 表現の自由、芸術・文化を守り、健全な文化発信の施策を拡充してください。

今、こうして改めて見ると、どこにも「クラブ」や「終夜営業」の文字はありません。Let’s Dance署名はクラブだけではなく、ダンス文化全体を守るための署名で、その事が結果的に社交ダンスやダンス教室といったダンスに関わる多くの業界との連携を生み出す事になりました。この連携が風営法改正運動における大きな推進力になったのは、極めて重要なポイントです。坂本龍一、大友良英、いとうせいこうを初めとする著名人が呼びかけ人として名を連ねるこの署名は、2013年5月までに16万筆を集めこれを国会に提出。他団体による呼びかけもあり、超党派の衆参議員約60人が『ダンス文化推進議員連盟』を発足させ、ここを主軸として法改正が動き出す事になりました。

■NOON裁判1審・大阪地裁

Let’s Dance署名が16万筆を集め法改正の気運が高まる中、2013年10月に、約1年半の準備期間を経て、NOON裁判が始まりました。日本初のダンス営業規制に関わる裁判でマスメディアからも高い注目を集めました。集まった弁護団は、既に実績豊富な実力派からクラブ、ダンスを愛好する若手まで、なんと総勢20人以上。1)NOONで行われていたダンスは風営法の規制対象となるダンスではない事、2)風営法によるダンス営業規制が憲法で謳われている人権を侵害している事、以上の2点を軸に無罪を主張しました。

摘発当日に店内にいたお客さんや警察官に対する証人尋問では、店内で行われていたダンスがどのような物であったかを証明するため、腕や足の動きを実際に確認する場面も登場し、ネット上でも大きな話題になりました。また、弁護団が申請した憲法学者や刑法学者の先生が出廷し、風営法の違憲性や現代における無効性について証言されました。
8回に渡る公判の結果、1審は無罪判決となりました。NOONの営業は風俗営業に当たらない。また風営法の違憲性については退けられたものの、規制の対象を「性風俗秩序を乱す具体的なおそれがある営業」と限定的に解するべきとの見解が示されました。

■NOON裁判2審・大阪高裁

一審の無罪判決を不服とした検察官は大阪高裁に控訴。これを受け、2014年10月に控訴審が始まりました。しかし、検察側が請求した証人尋問は却下され、無罪判決(2015年1月21日)となりました。面子を保つため? 何かのための時間稼ぎ?と思わざるを得ない不当な控訴に憤りを感じずにおられません。

控訴審の判決文では、新たに「すべてのダンスが3号営業の要件となりうるダンスに当たらない」とし、法改正の見地で言えば現風営法における3号営業(主にクラブ)は風営法の規制対象に当たらないという画期的な見解が示されました。

NOON裁判の二度に渡る無罪判決を「当然の無罪」と賞賛する声を多く聞きますが、私はそう思っていません。前例が無かったダンス営業規制裁判。裁判が始まった段階では「当然」どころか誰も判決を予想できなかったと思います。その前人未到の荒野を、妥協案ではなく「違憲性」というかなりハードルの高い主張を前面に打ち出し立ち向かった金光さんと弁護団の英断と、巧みな弁論と、証人として出廷された皆さんの勇気(特にお客さん)があったからこその無罪なのであり、私はそれを「当然」などとは到底言えません。私達はこの無罪判決の価値を再確認し、今後の法改正の中で活かしていくべきなのです。

なお、この控訴審判決に対しても検察側は最高裁判所に上告しており、2015年夏以降、審理が行われる予定になっています。

■映画「SAVE THE CLUB NOON」

NOON裁判1審・2審の期間とほぼ同じ時期に、全国の映画館で「SAVE THE CLUB NOON」が上映されました。先に紹介したイベント「SAVE THE NOON」の様子と関係者へのインタビューで構成されたこの映画は、NOON摘発当初の生々しい感覚を喚起させ、裁判に対する支援ムードを形成する上で大きな役割を果たしました。映画と裁判支援が連動するという構図も異例であり、文化の交差点として役割を果たしてきたNOONならではの現象と言えるのではないでしょうか。

次回は「ダンス文化推進議員連盟」発足から現在に至る法改正の流れと、各業界団体による取り組みについて書く予定です。

DJ MIZUTA